幻の郷土料理~泥亀汁(どろがめじる)は何故忘れられたのだろうか?
~ 小森管理栄養士が解く、受け継ぎたい泥亀汁

「泥亀汁」という料理をご存知だろうか?江戸時代、近江商人の昼食などに供されていた近江に伝わる郷土料理だ。しかし、地元飲食店でもメニューになく、生まれ育ったのは地元というスタッフも食べたことがないという。

 

社会福祉法人グループリガーレで開催した「めぐる-つたえる-つながる おもてなしバスツアー」の饗応として、地元でも殆どの人が食べたことがない幻のメニューの再現に、六心会管理栄養士小森管理栄養士が挑み、その雑感を語ってもらった。

 

(写真 左から、小森さんと平居さん 管理栄養士コンビ)

バスツアーの打ち合わせ段階から、近江の郷土料理で歓迎したいという声があがり、江戸時代からこの辺りに伝わる「泥亀汁(どろがめじる)」を準備してみてはどうか、ということになった。しかし、地元で生まれ育ったスタッフに「どんな汁もの?」と尋ねるも「食べたことがない」と言う。

そこで、管理栄養士でもある私がメイン担当として準備にあたることとなった。

 

そもそも「泥亀汁」とは何なのか?インターネットや郷土の書籍等で調べてみると、いろいろとわかってきた。近江商人は京都、大阪、江戸など他地域で店を持ち、主人は一年の大半を他地域で暮らした。本宅は留守を預かる妻と子ども、女中や丁稚、男衆なども含めると多い時で25人から35人が生活をし、昼食は一斉に食べる。五個荘は、農村地で具材の茄子も一定量が入手しやすく、夏お昼ご飯に供されていたのが泥亀汁だった。夏の暑さに負けないよう胡麻もふんだんに使われた。

出汁が染み込みやすくなるように茄子に格子状に切り込みがいれてあるのだが、その姿が泥の中に佇む亀のように見えるため、この名がついたそうだ。

 

( 泥亀汁の堂々とした亀甲文様 )

 

調理方法も調べる。地元在住の方に尋ねるも「知らない・・・」という返事。インターネットのレシピを参考に調理した。

 

材料は至ってシンプル、茄子を胡麻油で焼くと書いてあり、茄子を美味しく食べるためにひと工夫されていることに感心した(茄子の素焼きをしないレシピもあるようだ)。

胡麻は煎り胡麻を擂(す)り、良い香りを立たせる。味噌は白味噌が多いそうだが、今回は白味噌と合わせ味噌を使った。最後に煎り胡麻を浮かべ完成。

一杯には胡麻が大さじ2杯も入っている。基本はシンプルなレシピだが、茄子を胡麻油で下焼きしたり、煎りごまを使ったりと、手間をかけ丁寧な作り方をしているからこそ素材の風味が引き立ち一層美味しくなる。昼食にしては手間入りな一品だと感じた。

(仕込み中の小森さん)

 

今回レシピにはなかったが、胡麻の風味と汁のとろみ感を少し出すために練り胡麻を加えた。練り胡麻のコクがでて胡麻の風味が増した。とろみを出すために、胡麻を擂る際に白粥かご飯を足すこともあるという。また、少しとろみが付くことで摺りごまがまとまり、汁が飲みやすくなる。むせやすいお年寄りにも適している献立だ。

 

今回、泥亀汁に挑戦し、21世紀の五個荘住民には全く馴染みがない料理だと改めて知った。では、なぜ江戸時代では盛んに食べられていたものが今となっては幻の郷土料理となってしまったのだろうか・・・。私なりに想像してみた。

①近江商人本家の変化

近江商人本宅の使用人、丁稚たちが昼食時に食べていた。近江商人も時代の流れで本宅で暮らしていたこれら使用人たちがいなくなり、存在が薄れていったのではないか・・・。

②手間要りのレシピ

単なる味噌汁ではなく、調理工程に非常に手間が掛かる。これは実際に調理してみて一番に感じたことだ。たっぷりの胡麻を煎り、すり鉢で擂る、この手間だけでも、現代の生活では気合いが必要となる。この一手間で香りと味が引き立つが、この手間をかける調理法が敬遠され、廃れていったのではないか・・・。

③ネーミング

お世辞にも「泥亀汁」というネーミングが、美味しい料理をイメージさせない。地域の名物になるためには、「香り立つ、美味しい」を起想させる命名は重要だ。ちなみに、私は今回の担当で「泥亀汁」という名前が大好きになった。

 

(おもてなしバスツアーで訪れたみんなで食し、大好評だった)

 

泥亀汁、基本は味噌汁だが侮ってはいけない。とても食べごたえもあり、作るのなら良質の素材で手間と時間をかけ丁寧に作りたい。献立のメイン料理にしたいと思う位の料理だった。五個荘商人の血を受け継ぐ現代の町で、どこの家庭でも普通に食される料理として馴染みのあるものにできないか・・・、心からそう思った。

貴重な体験をサポートをしてくれた施設長や平居さん、ありがとうございました。

小森千晶(地域密着型特別養護老人ホームきいと 特養生活課長・管理栄養士)