当会がある五個荘(ごかしょう)地域では、毎年10月認知症高齢者等の早期発見と保護を目的として、住民と関係者が協力して訓練(以下、「保護訓練」)の実施とそれに関連して研修会を開催している。
認知症に関しては、2023年6月に認知症基本法が成立したことは記憶に新しい。認知症を発症したとしても、社会の一員として尊厳を持って自分らしく生きるための支援や認知症予防のための施策を初めて法律として定めた。認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう7項目で基本理念が構成されており、国・地方公共団体等の責務等が明記されたことの意義も大きい。
五個荘における保護訓練は、2008年から始まり、行政、自治会連合会の役員や民生委員、消防団、医療関係者、介護事業者、認知症キャラバンメイト等が実行委員会を組織し、相互に顔の見える関係を築き、認知症への理解をそれぞれの立場で深めてきた。
地域住民向けの研修では当会が企画を担い、今年も私と地域支援担当の2名で講師を務めた。テーマは「認知症の方への接し方、声のかけ方」。自尊心を傷つけず、急かせず、驚かせないという基本的な心得を伝え、その上で実際にある好ましくない声のかけ方など具体的な事例を示し、初めて聞いても理解が容易な内容で構成した。
講師という学びを提供する立場で研修に参加をする事で、研修内容の確認と見直しを毎年行う事が自分自身の専門知識の整理に繋がっている。昨年は私自身が実際に認知症の方を自宅前で保護し、警察を通じて無事にご家族へ引き渡すという貴重な経験をした。研修への関わりがいざという時に役立ったと感じている。この経験を通して得た事は、学びを実践する事により「経験知」という実践的な判断能力を得る事に繋がるという事だ。
この事業に参加する事によって、認知症になっても「住み慣れた地域で、大切な家族や友人と自分らしく過ごしたい」。このような思いを実現するために、地域住民の方々が認知症を正しく理解し、見守り、支え合う地域作りの一助に自法人がなる事と、高齢者施設の専門職として専門性を磨き続けるという事の必要性を再認識している。
高口 誠 (地域密着型特別養護老人ホーム きいと施設長)